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「荒野の用心棒」 [映画]

 黒澤明監督の作品は、海外でも多く翻案されてい
る。「七人の侍」は「荒野の七人」として製作された。
 もっともこの時は多少のトラブルがあったと聞く。
 ただし、主人公が勘兵衛(志村喬さん)と同じ坊主
頭のユル・ブリナーだったことを見ても、七人の侍へ
のオマージュ、愛を感じる。


 そして黒澤監督の初期の作品「用心棒」を翻案した
のがマカロニ・ウェスタンの傑作「荒野の用心棒」(邦
題)である。クリント・イーストウッドの出世作にして、
マカロニ・ウェスタンを確立させた作品として有名であ
る。面白さという点では、むしろウェスタンの方が優れ
ているかも知れない。


用心棒.jpg


 筋立ては黒澤作品と全く同じであり、主人公が2つ
のやくざ組織を争わせるという設定も、途中で捕まっ
て痛めつけられる点も一緒である。ただし、エンニオ・
モリコーネの口笛を使ったテーマソングや、酒場のお
やじの描き方、すまし顔の葬儀屋の描き方などは独
特の雰囲気を作り出している。ラストシーンで、鉄板
を胸の前に下げて、銃弾を避ける場面などは正に秀
逸であった。翻案作の中でも娯楽性が高い作品であ
ると思う。

地獄の黙示録「ワルキューレの騎行」 [映画]

 どの映画にも忘れられない場面があるが、「地獄
の黙示録」ではこの場面である。主人公(マーチン・
シーン)は元グリーンベレーの大佐(マーロン・ブラ
ンド)の暗殺に向かう途中、上陸する地点を確保す
るために、空軍騎兵隊に協力を依頼する。


 その騎兵隊の隊長は実にユニークな男で、主人
公よりも同行した上等兵のサーファーを見て、歓喜
の声を上げる。「ランス?サーファーのランスか?」
そして、サーフィンに適した波の立つ海岸を上陸地
点に選び、そこへ馬ならぬヘリコプターで奇襲をか
けるのであった。


 その奇襲の時、遠方から大音響で流す音楽が、
表題の「ワルキューレの騎行」である。闘いの女神
たちが、「トヨオー」と叫びながら突撃してくるという
この歌を、ヘリから流しつつ、地上を攻撃していく。

ヘリ.jpg


 そして、半ば制圧したところで上陸し、ランス上等
兵にサーフィンをするように指示する。殺戮のあっ
た海岸とサーフィンをする水兵。不思議な光景であ
る。そのサーファーに向かって砲撃がされると、ゲリ
ラの潜む森にナパームを撃ち込ませる。


 彼は、「俺はナパームの匂いが好きだ!」と叫ぶ。
 戦争の狂気を体現しているようなこの隊長。まさに
地獄の入り口にふさわしいシーンであったと思う。

日本のいちばん長い日 [映画]

 映画である。モノクロである。そしてそのことが、
より一層暗い戦争の時代を思わせる。終戦の日、
8月15日の玉音放送をめぐる話である。その前日
の正午から、玉音放送が流れる15日正午までの
時間をあたかもドラマ「24」のようにリアルタイム
に近い状態で描いた作品である。


 既に戦争を終結させることを決めた政府。しかし、
軍部の一部では、徹底抗戦を叫ぶ将校たちが蠢
いている。皇居を守るべき近衛師団の中にも徹底
抗戦派があり、彼らは何と、近衛師団長を殺害して
偽の命令書を作り、皇居を占拠する。


 また横浜から来た一隊は、首都に乱入して鈴木
貫太郎首相(笠智衆さん)の私邸を襲撃し、首相の
殺害を狙う。そんな中、阿南陸軍大臣(三船敏郎
さん)は東部軍に反乱の鎮圧を命じた後、割腹して
果てる。そして、徹底抗戦派は次第に抑えられ、放
送局も奪還されて、玉音放送は無事に放送される
ことになった。


 戦争終結までの流れを、着実に、しかも時間経過
を踏まえて描いている。抑えた画調や科白が、より
迫力を醸し出しているように思えた。秀作である。


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大島渚監督の「愛のコリーダ」と「愛の亡霊」を偲ぶ [映画]

 大島渚監督が亡くなった。それがしは、大島監督
作品をけっこう観ていた。特に「愛のコリーダ」という
映画と「愛の亡霊」については、封切直後に映画館
へ足を運んだものである。


 愛のコリーダの題材は、「阿部定事件」である。戦
争の足音が聞こえる昭和初期。愛欲にはまった男女
を描いたこの作品は、しかし「ハードコア」(本番)だけ
が大きく取り上げられ、誠に不本意な扱いをされた。

 大島監督は、毒婦といわれた定が、実は愛に生き
た女であり、吉蔵はただ殺されたのではなく、それに
殉じたのではないか、という解釈をしたのだと思う。

 阿部定を演じた松田英子さんは、正に昭和の女を
力一杯に表現した。その頑張りに対し、大島組の美
術監督は、京小袖の白無垢の着物を用意し、それを
藤竜也さんから渡すように手配した。主演の藤さんも
京都の旅館の一室を貸し切り、日本庭園を望むその
部屋で「スタッフからの気持ちです!」と、松田さんに
その着物を渡したそうだ。その瞬間、松田英子さんは
大粒の涙を流したという。
 大島組のみんなは、表現者としての松田英子に最
大限の敬意を表し、また、藤竜也さんも共演した女優
さんに最大限の称賛を贈ったのであろう。

 愛の亡霊では、吉行和子さんと田村高廣さんという
日本の名優2人が登場する。吉行さんの周囲では、
いわゆるハードコア作品への出演を危惧する声が高
かったそうだ。しかし、40歳を過ぎても吉行さんの美
しさは変わらず、他方、田村高廣さんの人力車夫の
老いの悲しみや生活感の表現力には大いに感嘆した
ものである。

 この2作品が、日本では単にハードコア作品としての
評価をされたが、カンヌ映画祭でともに高い評価を得
たことを考えれば、当時の日本での扱いや妙なボカシ
などは何だったのだろうと今更ながらに思う。

 この2作品とももう一度、観てみたい映画である。


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